消費税率8%改正にともなう実務対応について~中央区の税理士ブログ~
10月1日安倍晋三総理大臣より平成26年4月1日に当初の予定通り消費税率を8%に引き上げるとの決断が発表されました。
今回は増税の是非は置いておいて、改正に伴う実務対応について取り上げてみたいと思います。
まず消費税の仕組みについておさらいしましょう。
国税庁【暮らしの税情報-消費税の仕組み】より
消費税は別名『付加価値税』と呼ばれるように各事業者が生み出した付加価値に対して課税されます。
この場合の付加価値とは簡単に『販売額-購入額』と考えてください。
(5万円で購入したものを加工して7万円で販売すれば2万円の付加価値が生じた。というイメージで捉えてください。)
上図左から説明しますと、
① 製造業者 販売額50,000-購入額0=付加価値50,000×5%=消費税2,500課税
② 卸売業者 販売額70,000-購入額50,000=付加価値20,000×5%=消費税1,000課税
③ 小売業者 販売額100,000-購入額70,000=付加価値30,000×5%=消費税1,500課税
・・・で、問題なのは一番右の消費者です。
消費者は小売業者より100,000で購入する際5,000の消費税を払います。
これは、それぞれ製造業者2,500、卸売業者1,000、小売業者1,500と課税された消費税の合計額となります。
つまり、最終販売品にかかる消費税はすべて消費者が負担し、その前段階の製造流通販売ステージで各事業者が消費者の代わりに納税している。といえます。
これが所得税や法人税との違いなのですが、税の負担者と納税義務者が異なるのが消費税の一番の特徴です。
消費税の転嫁阻害防止
今回の改正で消費税率が3%アップします。いままで105,000円で買えていたものが108,000円支払わないと買うことができません。
名目は増税ですが、消費者からみれば単なる値上げと同じです。
問題は、すべての商品が単純に3%価格を上げて今まで通り売れるのか?ということです。
スーパーや百貨店のように莫大な商品を取り扱うような小売店では3%価格が上がったために売れ行きが悪くなる商品も出てくるかもしれません。
その商品を売るためには108円ではなく、105円に据え置かないとならないかもしれません。
それでも消費税率は8%に上がっているので消費税抜きの販売額は105円÷1.08=97円となってしまい、消費税率5%の時と比べて単純に粗利益が3%減ってしまうこととなります。
さて、この時にスーパーなどの小売業者はどうするでしょうか?
恐らく卸売業者に『お宅の商品、価格据え置かないと売れないから卸価格3%値引きしてよ。』なんて話になるかもしれません。もちろん卸売業者がこれ以上の値引きは出来ないという話になればそのまま小売業者が3%泣く話になります。
いずれにせよ3%値段が上がると売れない。というのであれば小売価格を据え置くことになりますので、小売業者か卸売業者かはわかりませんが、流通過程で弱い立場の事業者が3%泣くこととなります。
結局増税分を消費者に価格転嫁できなければ、いずれかの事業者が割り(粗利)を食う話になります。
基本的には規模の小さい事業者ほど立場が弱くなりますので、割り(粗利)を食う羽目になりやすい。
ということから、これらの事業者を保護する目的で『消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等 に関する特別措置法』(以下「消費税転嫁対策特別措置法」 という。)が平成25年6月に成立・施行しました。(平成29年3月31日までの時限適用)
概要は以下の通りです。
① 消費税の転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置
② 消費税の転嫁を阻害する表示の是正に関する特別措置
③ 価格の表示に関する特別措置
④ 消費税の転嫁および表示の方法の決定にかかる共同行為に関する特別措置
① 消費税の転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置
この措置は大手の小売事業者等が優位な地位を利用して卸売事業者等立場の弱い事業者に対し、既に取り決められた価格の減額を求めたり、買いたたきをしたり、役務提供・利益提供を求めたりする行為を禁止しています。
規制対象
・大規模小売事業者
・資本木3億円以下の事業者と継続的に取引を行っている事業者等
② 消費税の転嫁を阻害する表示の是正に関する特別措置
消費税分を値引きする等の宣伝や広告や消費税を転嫁していない旨の表示が禁止されます。
禁止される表示の具体例
・消費税はいただきません。
・消費税は当店が負担しています。
・消費税増税分値引きします。
・消費税還元セール
・消費税増税分のポイントを付与します。
・消費税増税分をキャッシュバックします。
③ 価格の表示に関する特別措置
事業者の値札の貼り替えなどの事務負担の軽減をする観点から税込価格を表示しなくてもよいとする特例が設けられます。(平成25年10月1日以降)
表示形式の具体例
・○○円(税抜)
・○○円(本体価格)
・○○円+税
・個々の商品には○○円と表示し、顧客が誤認しないよう『当店の価格はすべて税抜き価格となっています。』と目のつきやすい場所に明瞭に表示する。
④ 消費税の転嫁および表示の方法の決定にかかる共同行為に関する特別措置
事業者または事業者団体が行う転嫁カルテル・表示カルテルは独占禁止法の適用除外となります。(公正取引委員会に事前届け出が必要です)
・転嫁カルテル(消費税の転嫁の方法の決定にかかる共同行為)の具体例
事業者がそれぞれ自主的に定めている本体価格に、消費税額分を上乗せすることを取り決める。
(本体価格を取り決めることは従来通り独占禁止法に違反します。)
・表示カルテル(消費税についての表示の方法の決定にかかる共同行為)の具体例
税率引き上げ後の価格について、『○○円+税』や『税込価格○○円、税△△円』等と表示することを取り決める。
どちらかというと事業者間の法的手当。という色が濃いですが、②、③の表示に関する特別措置 は広くかかわってくるのではないでしょうか?
以下、宣伝広告・表示に関する具体例を挙げますので参考にしてみてください。
②について、
1 禁止される表示の具体例
(1) 取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示(第1号)
ア 「消費税は転嫁しません。」
イ 「消費税は一部の商品にしか転嫁していません。」
ウ 「消費税を転嫁していないので、価格が安くなっています。」
エ 「消費税はいただきません。」
オ 「消費税は当店が負担しています。」
カ 「消費税はおまけします。」
キ 「消費税はサービス。」
ク 「消費税還元」、「消費税還元セール」
ケ 「当店は消費税増税分を据え置いています。」
(2) 取引の相手方が負担すべき消費税に相当する額の全部又は一部を対価の額から減ずる旨の表示であって消費税との関連を明示しているもの(第2号)
ア 「消費税率上昇分値引きします。」
イ 「消費税8%分還元セール」
ウ 「増税分は勉強させていただきます。」
エ 「消費税率の引上げ分をレジにて値引きします。」
(3) 消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示であって第2号に掲げる表示に準ずるものとして内閣府令で定めるもの(第3号)
ア 「消費税相当分、次回の購入に利用できるポイントを付与します。」
イ 「消費税相当分の商品券を提供します。」
ウ 「消費税相当分のお好きな商品1つを提供します。」
エ 「消費税増税分を後でキャッシュバックします。」
2 禁止されない表示の具体例
次のような表示は、宣伝や広告の表示全体からみて消費税を意味することが客観的に明らかな場合でなければ、いずれも、消費税分を値引きする等の宣伝や広告には該当せず、本条で禁止される表示には当たらない。
(1) 消費税との関連がはっきりしない「春の生活応援セール」、「新生活応援セール」
(2) たまたま消費税率の引上げ幅と一致するだけの「3%値下げ」、「3%還元」
(3) たまたま消費税率と一致するだけの「10%値下げ」、「8%還元セール」
③について、
税込み価格が明瞭に表示されているか否かの考え方
消費者庁ガイドラインより
http://www.caa.go.jp/representation/pdf/130725premiums_2.pdf
http://www.caa.go.jp/representation/pdf/130725premiums_4.pdf
担当:内山 雄介